※写真はイメージです。
スキージャンプ競技のそもそもの発祥は死刑台!?
レジェンド葛西紀明選手や高梨沙羅選手がスキージャンプ競技で活躍し、話題となっている。そのスキージャンプのメッカといえば、やはり北海道。スキージャンプの競技会場、札幌・「大倉山シャンツェ」は、夏場も観光地として、多くの観光客が訪れている。
多くの人が下から見上げ、そのスケールの大きさに「すごいわぁ~」と驚く。だが、そそくさと観光バスに乗って次の観光地に向かう。
実にもったいない話だ。この大倉山シャンツェを2倍、あるいは3倍楽しむ方法があるというのに。そのことはあまり知られていない・・・。
それは、ジャンプ競技の恐怖感を、まるで自分の体験のように知ることだ。
最近、暑い日が増えた札幌の、真夏の日の涼しくなるストーリー・・・。
スキージャンプ競技はノルウェーで生まれた。
「競技の発祥は死刑だった」との説が最もらしく語られている。
死刑囚を冬の谷の上にスキーを履かせて立たせ、そこから突き落とした。
そんな死刑囚の一人が、たまたまうまく飛んで怪我もしないで、滑りきった。そこから競技となった、との話だ。
真偽のほどはともかく、それだけ危険な競技であることを現すエピソードだ。
スタート地点に立つだけで足がすくむ
大倉山シャンツェの横には、冬季に選手が利用するスタート地点までいける2人乗りリフトがある。このリフトは夏場、一般観光客に有料で開放されている。まずは、このリフトに乗車することをおススメする。リフトはかなりの急勾配を上昇し、地面と離れている地点で最大4~5mの高さを通る。高所恐怖症の気がある人には少しハードルが高いかもしれない。
もし、後ろを振り返る勇気がある人なら、背後に札幌の街並みが大きなパノラマとなる絶景を見ることができる。
スタート地点でリフトを降りると、選手が待機するスタートハウスへと進む。ハウスの前に行くと選手のスタート地点に立つことができる。
真下を見てみよう。
目の前にバーがある。とてもじゃないが、このバーを握っていないと立っていられない。 足がすくむ、どころか立っているのがやっと・・・。
スタート地点からは、まるで奈落の底に落ちるかのように感じる。
実際の滑走路は35度の角度なのだが、スキーを愛好している人なら感覚的に理解できると思う。
35度の斜面に立つと、そこはまるで絶壁。
その滑走路には真下に向かって、スキー板で滑る2本のレールが伸びている。
見れば見るほど、背筋がゾッとしてくる。
数字だけでも感じる恐怖
「飛ぶ」ではなく「落ちる」
さて、ここからスタートを切った選手はどんな気持ちなのか?想像してみよう。まず、35度の急斜面を、両足を抱えるように、直滑降で50m下る。
落下する距離は垂直方向に28mだ。
50m下った地点から、緩やかな曲面の滑走路に変わる。
この時点で選手は時速90kmに達している。
緩やかなカーブとはいえ、選手が後方に引かれる重力加速度Gは大きい。
この曲面でのGに耐えること約50mで、いよいよ踏み切りだ。
ジャンプ競技を「飛ぶ」と表現することが多いが、実はシャンツェの踏み切りの角度は水平方向に対して、下方向に11度になっている。
つまり、下を向いている踏み切りは「飛ぶ」のではなく「落ちる」ように設計されているのだ。
この踏み切り時点で、選手は時速100km近くに達している。
テレビでは簡単に選手達が飛び出しているが、実はすごいことだ。
もし、時速100kmで車を走らせることがあるなら車の窓を開けて、手を出してみるといい。ものすごい空気抵抗を感じるはずだ。
スキージャンプ選手はそんなものすごい空気抵抗を感じながら、下方に飛び出さなければならない。クラウチング姿勢から、足を伸び上がらせ、上体を前方に投げ出す。
言ってみれば、高速道路を時速100kmで走行している二輪バイクの上で、上体を前方に投げ出すようなものなのだ。これがどれだけ恐ろしいことか、想像するだけでゾッと背筋が凍る。
いかに「落ちない」かが、選手の技術
さあ、そこから空中に飛び出す。ここから選手は、飛行機やグライダーのように浮力を得て「飛ぶ」、のではない。
空気抵抗を受け、スキー板、身体の角度を保ちながら、いかに「落ちない」かの技術を競うのがスキージャンプなのだ。
選手は片手で空気抵抗を調節して、空中で捻転しそうになるフォームを逆転させることもできる。
手のひら、指を開いて、微妙な空気の流れを作ることもあるという。
思わず声が
「うおぉぉ」「おーっ」。シャンツェ近くで見ていると分かるが、多くの選手が空中で叫び声を上げている。
それだけ恐怖と戦っているということなのだ。
急な横風、前、後ろからの突風は、選手の空中のフォームを乱す。乱れてしまうと、着地で転倒を起こしやすい。それは大怪我を意味する。
着地ゾーン、いわゆるランディングバーンは37度。
これも急傾斜だ。
着地といっても、選手は傾斜の面に沿うように落ちてくる。
空中フォームが斜めになっていたり、ひねっていたりすると斜面にスキー板の一部を引っ掛けて、大転倒を起こす。
こうして、やっと平らなブレーキゾーンへ。
このブレーキゾーンまで、スタート地点からの落差は133m。これは高層ビルで38階建てに相当する。水平距離では268mになる。
このジャンプにかかる時間はたったの5秒。
秒速26.6mでの落下を時速に換算すると約96kmで落ちている。
ジャンプ選手も「怖い」?
こんなエピソードも
ジャンプ選手も、スタート地点では恐怖を感じるという。急傾斜、急速度の中で、踏切のタイミングが合わせることができるか?
空中で突風を受けることがないか?
そんな不安からくる恐怖感に打ち勝って、急傾斜の滑走路に身を投げ出す。
選手の待機所になるスタートハウス地点には、雪の壁のあちこちに黄色いシミがある。 極度の緊張で「もよおす」ために放出された跡だ。
真夏の恐怖をあなたも・・・
周囲の緑に囲まれた夏の大倉山シャンツェは、建造物として壮大なスケールを感じる。だが、そこで一人の人間が過酷な条件で、空中に「落ちる」。いかにこの競技が、ほかのスポーツ競技と違うことが分かる。
常に危険と背中合わせのスキージャンプ競技。
40歳を超えてチャレンジすることが、いかに厳しいことか。いや、若くても危険を回避できるとも限らない。
ぜひ、大倉山シャンツェの横のリフトに乗りながら、その恐怖感を味わって欲しい。