※写真はイメージです。
三冠馬「黄金の伝説」オルフェーヴル
「オルフェーヴルに会いたい」ファンの熱い思いが社台スタリオンステーションを動かした。
史上7頭目のクラシック三冠馬、有馬記念、宝塚記念を制し引退した「金色の伝説」オルフェーヴル。「暴君」「悪童」とも呼ばれた気性の激しい馬が種牡馬人生を始めたばかりなんだから「見学不可」。牧場に行けば会える、という馬ではない。そこで、2014年には3度の特別見学バスツアー(6、7、8月)が組まれ連日満員……そりゃ当然ですね。
オルフェーヴルのご尊顔を拝する幸運を手に入れたら、是非、足をのばしていただきたいサラブレッド生産牧場がある。
オルフェーヴルとたった一度だけ対決したゴールドシップのふるさと、出口牧場(日高町)。この二頭が相まみえた有馬記念こそ「奇跡」と呼ぶべきレースだったからだ。
オルフェーヴル、ディープインパクトがいる社台スタリオンステーション
テレフォンサービス(0145-22-4600)で放牧時間と見学可能な馬を確認してから行こう。「史上最強馬」ディープインパクトをはじめ、クロフネ、ジャスタウェイ(引退直後なのにもう間近で見学できる!)、シンボリクリスエス(黒い馬体が美しすぎる。必見!)など世界最強のスター軍団があなたをお出迎え。
まずは千歳空港から車で15分の「ノーザンホースパーク」へアクセス。
ノーザンホースパーク
〒059-1361北海道苫小牧市美沢114-7
TEL/0144-58-2116FAX/0144-58-2377【乗馬受付】TEL/0144-58-2812
【開園時間】
夏期間(16:00以降入園無料)
(4/23~9/30)9:00~18:00
(10/1~10/31)9:00~17:00
冬期間(入場無料)
(11/1~4/22)10:00~16:00
【アクセスマップ】
車でお越しの方は高速自動車道[新千歳空港I.C]もしくは[苫小牧東I.C]にて国道36号線経由で道道千歳・鵡川線に入り、案内看板を左折してください。
「同じ血」を持つ「エリート」と「雑草」が奇跡の邂逅、そして激突
競馬予想をやっていて「あれ!?」と思う瞬間は多々あるが、これは久々に感じた新鮮な驚きだった。オルフェーヴルとゴールドシップの血統。
オルフェーヴル父ステイゴールド母の父メジロマックイーン
ゴールドシップ父ステイゴールド母の父メジロマックイーン
血統背景が同じなのだ。「同じ血を持つ二頭」といっていい。だが……。
オルフェーヴル……日本競馬を文字通り「席巻」する巨大牧場群「社台グループ」が世に送り出したエリート。いわば、「名馬になるべくして生まれた」馬。
ゴールドシップ……繁殖牝馬十数頭の小さな牧場で生まれた馬。近年、中央競馬で活躍する出口牧場生産馬は皆無。最高峰レースの勝ち馬、GIホースは一頭も出ていない。
社台グループの繁栄は元ジョッキーの次の一言に集約されている。
「(居酒屋で「どの馬が勝つの?」と聞かれ)、GIだろ?簡単だよ。『社台』『ノーザン』と書いてある馬を買えば当たる」
一方、出口牧場といえば……80年代前半にGIレースで逃げたレジエンドテイオーが最後のスター!?
私もまた、レジエンドテイオーの馬券を握りしめ捨ててきた者の一人だ。迫力と美しさをあわせ持った馬だったが……GIを逃げ切ることはできなかった。
同じ血を持ちながら、オルフェーヴルが「エリート」ならゴールドシップは「雑草」。プリンスと野武士。
それだけでも「ドラマ」なのだが、競馬にはまだ奥がある。
血統表をさらに過去に遡り、ネットを漂流し、最後に私は押入れの奥深くに眠っていた一冊の本を引っ張り出した。
『血と知と地』(吉川良ミデアム出版)
社台グループ創始者、吉田善哉さんの伝記である。
日本競馬の母――「伝説の血」を今に伝える出口牧場
年号が昭和になったばかりの頃、下総御料牧場がアメリカから6頭の繁殖牝馬を輸入し、日本の近代競馬は始まった。6頭のうち最初にダービー馬の母となった馬の名は、「星旗」。この牧場で草を食んでいるポイントフラッグは8代目の子孫。ちゃんと「旗」の文字を引き継いでいる。
ゴールドシップの偉大なかあさんに会いに行こう!
見学時間など電話でのアポイントを忘れずにね。
出口牧場
電話01456-5-2266
北海道沙流郡日高町字賀張172−3
「星旗……女王様のようだった。あんな馬がほしかった」吉田善哉
記憶をたぐり、ページをめくり……あった!<わたしが10代のころね、夜になって牧場の星を見るとね、星旗とか星浜とか、星のつく字の肌馬のことを思い出すんだ。牧場で見る星は特別に輝いているからね、キラキラと。ああいう馬が欲しいって。うらやましいんだ。父親に頼んで見に行ったもんだよ、御料牧場にね、星の馬たちを。女王様に見えたね>(吉田善哉さんの述懐)
ゴールドシップの母方の系図をたどっていくと「星旗」という馬にたどり着く。ゴールドシップの母ポイントフラッグは星旗の6代目の子孫だったのだ。
若き日の吉田善哉さんにとって、星旗はあこがれの的であり女王だった。
社台ファームを作った吉田さんは、ノーザンテースト、サンデーサイレンスなどを輸入。
日本競馬伝統の「血のドラマ」を根底から覆し大成功を収めた。
社台グループによる「革命劇」のなか、淘汰されたのが「星の馬たち」とその系譜だった。「日本競馬の偉大なる母」星旗の名は忘れ去られ、血脈は「途絶えた」のだと私は考えていた。「星の馬たち」はもういない、と思っていた。その子孫がGIの大舞台に再び現れることなど、想像すらしていなかった。迂闊にも。
こう言ったら、言い過ぎだろうか?
ゴールドシップは吉田善哉さんに殺されたはずの馬だった。
かばんに文庫本、ポケットに「伝説」を入れて草原に行こう!
1913年12月22日。中山競馬場。有馬記念。オルフェーヴルは最後のレースの最後の直線を駆け抜けた。今日をもって現役引退。圧倒的1番人気。
想像を絶する圧勝劇だったため、9馬身半も後ろを走っていた白い馬体のことを思い出す人はいないだろう。ゴールドシップは3着に敗れた。
オルフェーヴルが強いことはわかっていた。それはそれは骨身にしみて。
これが「星の馬たち」の復讐劇でも、百年近い歴史への反逆でもなく、ただ1レースの競馬であることもわかっていたつもりだった。
<単勝の馬券を買う人は結局、馬券を買うんじゃなくて自分を買っている。><つまり競馬場へ、わざわざ一枚のカミになった自分を買いにいくわけだ。だからみんな自分によく似た馬を買ってくる。しかし軍配は大抵、歴史にまかせる。>(寺山修司『対談競馬論』ちくま文庫)
日々の暮らしとは「歴史の必然」を思い知らされること。その連続が人生だが……果たしてそれだけだろうか。
かばんに文庫本を、ポケットに「レジェンド」を入れて北海道へ行こう。
ゴールドシップ陣営は、高らかに「現役続行」を宣言した。
2015年1月15日。オルフェーヴルに待望の初仔が誕生した。
なみだを馬のたてがみに
こころは遠い草原に
寺山修司