【第2回】記録映画『東京オリンピック』黒澤明氏と市川崑氏|リアルホットスポーツ

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2015年8月10日
【第2回】記録映画『東京オリンピック』黒澤明氏と市川崑氏

1964年に開催された東京オリンピックの記録映画の総監督を務めたのは市川崑氏。興行収入25億円の大ヒット作品となった。

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※写真はイメージです。

『東京オリンピック』の監督が黒澤明氏から市川崑氏に

1965年3月20日、この日、前年の1964年に開催された『東京オリンピック』の公式記録映画が東宝系で劇場公開されている。
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文庫『TOKYOオリンピック物語』(野地秩嘉/20134年10月13日/小学館)には、この公式記録映画の製作秘話が綴られていて、とても興味深い。
東京オリンピックが開催されたのは1964年10月10日から24日のこと。
大会が終わって半年も過ぎているというのに、『TOKYOオリンピック物語』によると、6か月で総動員数1960万人、興行収入25億円となる大ヒットとなったという。

東京オリンピック組織委員会では、この公式記録映画の監督に当初、黒沢明氏を予定していたらしい。
黒沢明氏が監督を務めることは東京オリンピック開催の4年前から決定していた。
そのため、黒澤明氏は『ローマオリンピック』(1960年)を訪れ競技のいくつかを観戦している。撮影プランも練っていたという。

その黒澤明氏が記録映画の製作予算として提示したのは5億5000万円。
だが、その提示額に組織委員会は頭を抱えた。
ローマオリンピックの記録映画の製作費はその半分以下。しかも劇場公開をしても黒字にはならないとわかったからだった。とてもじゃないがそれだけの予算を出すのは難しい。
そのため黒澤明氏は見送られることとなった。
黒澤明氏にしてみれば良い作品を作ろうとすればするほど費用はかかる。それだけの費用が認められないのでは、自分が監督をする意味がない。そう考えたらしい。

黒澤明氏の後任としてメガホンを取ることとなったのが、市川崑氏だった。
市川崑氏が手掛けた記録映画『東京オリンピック』の総予算は2億7000万円。
組織委員会の想定内の予算。
それでも、スタッフ総勢265人。映画キャメラ83台。上映時間170分という大プロジェクトとなった。
この記録映画『東京オリンピック』が公開されると6か月で総動員数を1960万人、興行収入25億円の大ヒットとなったのだ。黒澤明氏が監督を務めていても元は取れたのではないだろうか。

ニュース映画社のスタッフの活躍

市川崑氏が打ち合わせのためプロデューサー・田口助太郎氏を訪ねたのは1964年の1月。オリンピック開催まで9か月に迫っていた。
組織委員会が後任の監督を探している間も記録映画の撮影はスタートしていた。
制作を受け持ったのはニュース映画を制作していた7社だった。
今では映画館で本編の前に上映されていたニュース映画を見た、と記憶している人はもう、ほとんどいないだろう。
ニュース映画とはテレビのニュース報道と同じようなもので、1964年当時はどの映画館でも上映されていたのだ。

監督が決まっていないのに撮影が開始されているというのは乱暴な話しだが、映画というのはストーリーがあり、役者が演じて作られるのに対し、記録映画はストーリーがあるわけでもなく、役者が演じるわけでもない。総てはあるべき状況を記録することに記録映画の価値がある。監督がいなくとも脚本がなくともフィルムに収めることはできる。
事実、市川崑氏が現場で監督としてするべきことは特になかったらしい。
市川崑氏がやっていたことは組織委員会への交渉が主な仕事で、あとは事務局で麻雀をしていたらしい。

市川崑氏が実際に着手し始めたのは1964年の3月。大会開始まであと半年となっていた。
市川崑氏はシナリオを詩人の谷川俊太郎氏に依頼している。
『東京オリンピック』は谷川俊太郎氏にとって初めての映画脚本となった。

その頃、ニュース映画社から来たスタッフは撮影プランを練っていた。
動きの激しいスポーツを撮るのは専門家でないと難しい。
ニュース映画社から来たスタッフの中には、市川崑氏のことを「記録映画では素人」と思っていた者も少なからずいたという。
実は、この記録映画『東京オリンピック』の面白さは、ニュース映画社のスタッフたちによる躍動美と、それをさらに高める映像美となって作られたことに価値があるのだ。

記録映画『東京オリンピック』は今でもDVDで観ることが出来る。
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僕は、文庫『TOKYOオリンピック物語』(野地秩嘉/20134年10月13日/小学館)を片手にDVD『東京オリンピック』を観てみることにした。

著者:大橋博之

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専門分野/Webメディア・カルチャー・アート。著書/『SF挿絵画家の時代』(本の雑誌社)『心の流浪 挿絵画家・樺島勝一』(弦書房)『日本万国博覧会 パビリオン制服図鑑』(河出書房新社)ほか。所属/日本SF作家クラブ・日本ジュール・ヴェルヌ研究会。