『まさかスタートとは思っていなかった』
試合後の太田敦也選手の囲み取材での第一声。この日のスタート5は、石崎巧選手の足の故障もあり、ポイントガードは変更するだろうと予想はされていた。
しかし、インサイドの選手も変更してきた。
改めて、8月16日のスタート5をご紹介しよう。
6 比江島 慎
8 太田 敦也
24 田中 大貴
25 古川 孝敏
34 小野 龍猛
太田選手は『試合前に告げられた』そうで、しっかりディフェンスの意識をもって取り組んだ。
さあ、この日のゲームはどうなったのか?
気持ちのこもったプレイでベンチが盛り上がり、そしてビッグプレイへ
(前半終了 日本46-30 チェコ)
第1ピリオド、前日からスタート5を変更した日本代表。
最初のディフェンスはオールコートディフェンスから自陣ではマンツーマンディフェンスを選択した。
そして先制は、土曜日同様、小野龍猛選手のスリーポイントだった。
さらにこの日スタートの太田選手も得点し、古川孝敏選手のスリーポイント、田中大貴選手のカットインでリズムよく得点。
残り6分21秒チェコ代表はタイムアウトを要求。
その後、日本代表は24秒オーバータイム、トラベリングとバイオレーションを積み重ねリズムが悪くなるが、要所で得点し第2ピリオドへ。
(※24秒オーバータイム・・・ボールをコントロールしているチームが攻撃時にボールを受け取ってから24秒以内にシュートリングに当てないといけない。当てなければオーバータイムとみなし、相手チームに攻撃権が移る。オフェンスリバウンド(シュートリングに当たって、シュートした側の選手がボールを受ける行為)した後は、その後14秒以内にリングに当てないといけない。)
第2ピリオドに入り、日本代表は松井啓十郎選手がコートイン。
昨日の試合終了後、川淵三郎日本バスケットボール協会会長から『奇跡を起こすならスリーポイントを決めることだよ。』と指摘され、とにかくスリーポイントを決めるという意気込みだった。
残り7分38秒、松井選手は間合い良くスリーポイントを決める。
そして田臥勇太選手に変わってコートインした橋本竜馬選手も躍動した。
すぐにカウントワンショットで流れを掴むと、ディフェンスでも相手のボールをカットし、チェコ代表のリズムにさせない。
そして太田選手の献身的なプレイでベンチのムードは最高潮へと進んでいく。
ここで、大田選手に変わって荒尾岳選手がコートインしてから、あのシーンのお膳立てが始まるのである。
スモールラインナップから『KJ』祭りへ
残り5分を切ってから、荒尾選手をコートインさせた長谷川健志ヘッドコーチ。
この時点で、日本代表に2m以上の選手はコートにいない。
いわゆるスモールラインナップになったわけだ。
チェコ代表は、当然のようにゾーンディフェンスを敷いていく。
ゴール下の制限区域周辺を守る体制になるので、ゴール下のことをそれほど警戒しなくても良くなるわけだ。
難しい体制でアウトサイドシュートを打たせるシステムだから。
両チームとも1本ずつ得点をしていき、チェコ代表はヴィオラール・トマーシュ選手がディフェンスファウルをした所でタイムアウトを要求。
ここで、おそらく作戦を確認したであろうチェコ代表。
しかし、その後の1プレイで1人の選手のリズムを最高潮にさせてしまう。
タイムアウト前のチェコ代表ヴィオラール・トマーシュ選手のシュートモーションからのディフェンスファウルにより獲得したフリースロー。
小野選手のフリースロー1本目は決まり、2本目へ。
このフリースローは外れるものの、日本代表がリバウンドを取り、再び攻撃権は日本代表に。
そして、ボールは『KJ』こと松井啓十郎選手へ渡り、シュート。ゴールが決まる。
その後日本代表は3-2ゾーンディフェンスを敷き、チェコ代表クレチュカ・ラディム選手のスリーポイントが決まるが、その後再び『KJ』にボールが渡るのである。
ここで彼はこの日2本目のスリーポイントを決める。
続いて日本代表はディフェンスをマンツーマンディフェンスに戻す。
ディフェンス後の残り1分39秒、オフェンスリバウンドを5回しながら粘り、みたびKJの手に。
そしてゴールを決めカウントワンショットも決める。
その前のチェコ代表のディフェンスファールで抗議したコネチュニー・ミハルHCのテクニカルファールもあって、そのフリースローを『KJ』が決める。
『KJ』祭りはまだ終わっていなかった。
テクニカルファール後の攻撃権はファールを受けた側、つまり日本代表になる。
もう『KJ』は止められない。
ここで2本連続スリーポイントを決めて一気に19点リードとする。
冨樫選手登場で、代々木は大歓声。田口選手も
(試合終了 日本 75-61 チェコ)
後半に入り、第3ピリオド。
日本代表はマンツーマンディフェンスでしっかりディフェンスをしていく。
田臥選手の技ありノールックレイアップシュートが決まると会場がどっと湧き、チェコ代表はタイムアウトを申告。
一時は点差が縮まったものの、終盤チェコ代表クシーシュ・マルチン選手にアンスポーツマンライクファウルが宣告され、ここをきっかけに日本代表はリードを広げる。
そして第4ピリオド。ポイントガードでプレイしていた橋本選手が接触で倒れて会場は騒然とする。
様子を見た長谷川健次ヘッドコーチは、会場全体に聞こえるように『冨樫』とコールする。
代々木第二体育館のお客様は総立ち状態で、彼を迎え入れる。
まだ本調子でないものの、彼を見たさに会場に足を運んだファンの方もいただろう。
ゲームは終盤になり、もうひとり大きな歓声を受ける選手がいた。
田口成浩選手だ。
コートインして試合の最終盤、彼の得意のアウトサイドからのスリーポイントシュートを打つシーンがあったが、これは惜しくもリングに嫌われ得点はできなかった。
試合は、終盤までプレッシャーをかけ続けた日本代表が2連勝してこのシリーズチェコ代表に2勝1敗とした。
『日本代表はあこがれの存在』
試合終わりの田口選手での囲みでのコメント。
富士大学からターキッシュエアラインズbjリーグ秋田ノーザンハピネッツに進んだが、プロになるまでは決してエリートコースを歩んだわけではない。
だからこその代表のユニフォーム。
そして聖地代々木第二でのプレイだったであろう。
長谷川ヘッドコーチが『彼は自分の仕事をやろうとした。スリーポイントを打った。後足りないのは経験だけ。』と語るぐらい本当に足りないのは経験だけだろう。
練習から声を出し、盛り上げた彼の存在は日本代表にとって大きなものだったに違いない。
『球際に弱いというのを払拭したかった』
試合後の長谷川ヘッドコーチの記者会見での発言。
初戦は敗れたものの、代々木の2戦は果敢にプレッシャーを掛けたディフェンスを遂行し、相手が嫌だと思われるチームにしてきた。
この日は松井選手の活躍もあり勝利した。
しかしリバウンドの部分で課題が残るが、これからチームの完成度を上げていく中でさらに『球際の強いチーム』へと進化したとき、日本代表はリオへの道が開かれるだろう。
【連載】バスケットボールジャーナリストが見た日本のバスケットボール界のリアル