【第3回】ミッシング・リンクに変身する前のデューイ・ロバートソンとは何者だったのか?|リアルホットスポーツ

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2015年8月10日
【第3回】ミッシング・リンクに変身する前のデューイ・ロバートソンとは何者だったのか?

「緑色の魔人」ミッシング・リンクに変身する前のパワーファイター、デューイ・ロバートソンとは何者だったのか?1982年以前の資料は皆無。参考になるのは、すべてが誇張された漫画だけ。インターネットを漂流し、私は一本の動画を発見した。

フリーライター
  
pro-wrestling03
※写真はイメージです。

古いブラウン管のなかで、その男は右の拳を高く突き上げた

ヒクソン・グレイシーと闘うかどうかは、やつのドロップキックを見てから決めるよ
三沢光晴

試合場所不明。日時不明。
だが、とにかく「消えた男」デューイ・ロバートソンがメインエベンターとして闘っている唯一の動画である。

デューイは青いガウンで登場。胸にでっかく「CANADA」の赤文字。リングアナが名前を告げると、右こぶしを高く突き上げ……。
ん? 誰かに似ている。
そう。「怪物」になる前、「アイドル」のふりをしていたジャンボ鶴田。「善戦マン」と呼ばれていた頃のジャンボにそっくりだ。

ガウンを脱ぐとアマレスの赤い吊りパン。お腹のところにカナダ国旗のメイプルリーフ。
「人間とサルの中間にいた幻の生物、ミッシング・リンク」という凝りに凝ったギミックとは大違い。デューイ・ロバートソンというキャラは客席にこう伝えているだけだ。
「僕は生まれ育ったカナダが大好き」
試合が始まっていつもの感覚に襲われた。
「昔の米国プロレスはやっぱりたるいなあ」
ゴングはずいぶん前に鳴っているのに、レスラーが組み合わない。
「パイパー! 来い!」
リック・フレアーがマイクでアピールするが、ロディー・パイパーは応じない。リングに出たらすぐにジミー・スヌーカにタッチ。フレアーはスヌーカと闘おうとしない。悪役二人は揃ってリングを降りてしまったり……客をじらしまくるのだ。

フレアーはリングを「バカ歩き」し、パンチを出すパフォーマンス。これで会場が沸きに沸くのだから……米国人はわからん。
フレアーとスヌーカが組み合ったのは動画が始まって5分過ぎ。働け!
悪役コンビはタッチロープを使ってフレアーの首を絞める。弾むゴム毬のように乱入したデューイがスヌーカをコーナーに叩きつける。
デューイの躍動を見て、こう思わずにはいられない。
「このあと、デューイは大けがをしたのではないか?」
パイパーの反則攻撃でフレアーはふらふらに。ロープを揺らしタッチを求めるデューイ。
「故障で動けなくなったから、怪奇派に転向するしかなかったのではないか?」
フレアーの飛びつくようなタッチを受けてデューイがリングに。
アッパーカットでパイパーをぶっ飛ばしたデューイは、相手二人を連続して抱え上げマットに叩きつける。デッドリードライブ。
パイパーにアトミック・ドロップが炸裂。
1995年春に後楽園ホールで見たミッシング・リンクのアトミック・ドロップとはまったくの別物だった。高く抱え上げ絶妙のバランスでひざに叩きつける。重心が微動だにしない。
デューイが次に出した技は、アントニオ猪木の必殺技、コブラツイストだった。
パワーファイターであり、かつ、テクニシャン。
みのもけんじ先生の漫画は絵空事ではなかった。
特筆すべきはデューイの「やられっぷり」だろう。体全体で受け身を取る。全身を波打たせてダメージを表現する。しかし、フォールの体勢はことごとくカウント2で跳ね返す。
「やっぱり負け役はデューイか」
そう思っていたのだが……。
リング上の「スター」3人は、得意技を出し尽くした。
スヌーカがボディスラムの体勢でフレアーを抱え上げる。
抱え上げられたパートナー、フレアーの背中にデューイが強烈なドロップキックを放つ。
ドロップキックこそプロレスの基本技だが、デューイのそれは打点がとんでもなく高い。
スヌーカがぶっ倒れ、フレアーが覆いかぶさりカウント3が入った。
私はリングで亡くなった三沢光晴の言葉を思い出した。

ドロップキックはプロレスの代名詞 プロレスラーの誇り

プロレスラー、高田延彦が柔術のヒクソン・グレイシーに完敗し、「プロレス最強論」が崩壊したときのことだ。
そんなときに全日本プロレスのエース、三沢に会ったらこう言いたくなるよね。
「プロレス界全体のために、三沢さんが立ち上がり、ヒクソンをぶっ潰してくれ」
「高田選手の仇を取ってくれ」
三沢光晴の言葉は意外なものだった。
「ヒクソンとやるかどうかは、やつのドロップキックを見てから決める」
この言葉をそのまま雑誌に書くことにはためらいがあった。三沢光晴が「逃げている」ように読めるからだ。
ファンが望んでいるのは「どんなルールであろうがプロレスラーは強い」という証明だった。しかし、三沢光晴の言い方ではこうも読める。
「ヒクソンがプロレスをやるのなら、対戦してもいいよ」
ヒクソンはプロレスをやらない。やるわけがないから、三沢―ヒクソン戦は実現しない。ファンは嘆く。
「三沢は逃げた」
そうなのだろうか?
答えは今も出ていない。答えはないが、これだけははっきりしている。
「ドロップキックこそプロレスラーの誇り」
ドロップキックはプロレスの代名詞なのだ。

デューイ・ロバートソンが遺した唯一の動画。それは「名勝負」と呼べるものではない。
毎週、テレビで放映されるありふれたメインエベントのひとつにすぎない。
では、「ダメな試合か?」と問われたら、答えはもちろん「NO」だ。
ミッシング・リンクの謎を追ってきた私としては、この動画一本で充分だった。
ディーイ・ロバートソンは、「スター」であるリック・フレアー、ロディー・パイパーを盛り立てるために精一杯の仕事をした。
デューイ・ロバートソンの技は、ひとつひとつに心がこもっていた。
彼は真のプロレスラーだった。
【連載】魔術とリアルが交錯する「プロレス怪人伝」

著者:中田 潤

フリーライター
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『平凡パンチ』専属ライターを経てフリー。スポーツを中心に『ナンバー』『ブルータス』『週刊現代』『別冊宝島』などで執筆。著書は『新庄のコトバ』『新庄くんはアホじゃない』など多数