【第12回】プロレスの内幕が暴かれカクタス・ジャックの自傷行為はエスカレートしていった|リアルホットスポーツ

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2015年8月26日
【第12回】プロレスの内幕が暴かれカクタス・ジャックの自傷行為はエスカレートしていった

「死闘」と呼ばれたプロレスの映像。次のシーンは、対戦した二人が笑顔で試合の流れを話し合う様……。ドキュメンタリー番組でプロレスの内幕が暴かれた。

フリーライター
  
pro-wrestling12
※写真はイメージです。

プロレスより真剣勝負の方がきつい、ってみんな誤解しているんだよ

「みんな誤解してるんじゃないの?」
プロレスラー・高山善廣はゆがんだ笑みを浮かべたまま語り出す。
「なんかさ、プロレスよりPRIDEの闘いの方がきつい、とみんな思っているわけさ。プロレス記者を含めて」
虚を突かれた。
「真剣勝負はきつい。プロレスは楽だ」
私もそう思っていた。

「客席から声が聞こえる。ケイン・デューイ!(デューイを叩き潰せ!)デューイは3歳になる俺の息子だ。パパは身売りしたんだ。10万ドルの契約金でな。クズ野郎が経営する質屋で働くために」(カクタス・ジャックのインタビュー)
「質屋」とはプロレス団体WCW。当時はWWFと同等の規模を持つライバル団体だった。
「私はやってほしくない」(マッチメイカーのダスティ・ローデス)
「やめようぜ」(対戦相手のビッグバン・ベイダー)
言うことを聞かないカクタスをベイダーは「いやだなあ」と思いながら場外で担ぎ上げた。
コンクリートの床へのパワーボムが炸裂。
<救急車が来るまでの40分間、僕はその場に倒れていた。右半身の感覚がなかった。>(ミック・フォーリー『ハヴァ・ナイス・デイ!』)

治療を終え、久々に試合会場に来たカクタス・ジャックは我が目を疑った。
「ハードコア・レジェンドが帰ってくる!」
そんなコピーはどこにもなかった。カクタスは前座レスラーに格下げされていたのだ。
「みんなが止めたのに、お前は自殺行為を勝手にやって勝手に休んだ。契約違反もいいところだ」
これが団体側の言い分。
ミック・フォーリーはカクタス・ジャックを質屋に持って行き、10万ドルを受け取った。WCWの倉庫には、「交換可能な質草」がいくらでもある。インタビューでカクタスが言いたかったのは、蝕まれた「レスラーの誇り」である。
それがテレビ局TBSに乗っ取られたプロレス団体の現実だった。

優勝賞金は一本の缶コーラだった

カクタス・ジャックがWCWを去ると、テレビのドキュメンタリー番組がプロレスの内幕を全米に向け暴露した。
死闘を繰り広げたレスラー同士が、実は試合前に試合の流れと技を和やかに話し合っていた。
「お前、あんなことやってんの?」
友人に笑われ、ミック・フォーリー(本名。書いていてもややこしくてかなわないが)は深く傷ついた。

カクタス・ジャックの「プロレスという名の自傷行為」はさらにエスカレートしていった。
敬愛するテリー・ファンクと「どちらが多くの血を流すか?」を競い合った。

1995年4月。東京ドームで行われたオールスター戦。
有刺鉄線を巻きつけたバットを手にしたカクタスにテリーは囁いた。
「やれ」
バットはテリーの脳天に降り降ろされた。
この試合はなんとノーギャラ。弱小団体IWAは、アメリカから招いた大物二人のギャラをすぐさま借金返済に回した。

同年8月。川崎球場で行われた「キング・オブ・デスマッチ」戦。
画鋲だらけのマットにパワーボムで叩きつけられ、脚立の上から有刺鉄線に落ち、血まみれで優勝したカクタス・ジャックは、IWAの浅野起州社長にこう言ってみた。
「優勝したんだからボーナスをくれませんか?」
浅野は「ボーナス? これでどう?」と缶コーラを差し出した。ミック・フォーリーは、この缶コーラを大切に保管しているという。

私も川崎球場のスタンドにいたが、思い出すのは真夏の太陽に照らされキラキラ光る画鋲くらいのもの。カクタス・ジャックが何をやっても、どんなに血を流しても、彼の思いは伝わらない。
カクタスは、うだつの上がらぬまま弱小団体のリングで闘い続ける黒人レスラー、J・T・スミスについてこう語っている。
「これからずうっと先も、J・T・スミスがコンクリートの床に向かってダイブするのを眺めてなくちゃならないのか? ファンは笑う。『あ、失敗した』……ファック・ユー!!」
「俺たちは価値のないことをやっている」

WWF成功のカギは「プロレスはショーだ」と白状したこと?

プロレスファンはなぜか、こういう言い方をする。
「プロレスの内幕が暴かれ、ビンス・マクマホンもそれを認めたから、WWFは急成長しビッグビジネスになった」
<WWFの巨大さを金額に直すと10億ドル。ニューヨーク・ニックス、テキサス・レインジャーズ、ニューヨーク・メッツより高額だ>(映画『ビヨンド・ザ・マット』のナレーション)
「ストーンコールド」スティーブ・オースチンの年収は、全盛期、10億円を超えたといわれている。
引退後、ミック・フォーリーはこう語っている。
「言うまでもない。WWFが最高の団体さ」

1996年4月。マンカインドはWWFのマットに登場した。
ボブ・ホーリーを一方的に痛めつけると、頭を抱える。
マンカインドの長い髪がごっそりと抜ける。見つめるマンカインド。
完全な怪奇派。気持ち悪いやつ。自作のマスクは「半分ちぎれた耳」をことさらに強調している。
ビンス・マクマホンがミック・フォーリーのために準備していたギミックは「切り裂きマンソン」というものだった。
わかりやすいけど……ビンス、あんたは中学生か!?
「殺人鬼を演じろ」と命令されて、ミックの頭にひらめいた名前。
Mankind 人類。
以後、ビンスはミックにギミックの強要をしていない。おそらく、マンカインドというアイデアを「天才的だ」と思ったからだろう。

その後、デュード・ラブもWWFデビュー。ミック・フォーリーは10年来の夢を実現させた。
「実は僕、ミック・フォーリーっていう名前なんだ」(リングでマイクを取ったマンカインド)
なんと、本名をカミングアウト。これ、「掟破り」じゃないの?
「マンカインドは僕のもうひとつの人格。デュード・ラブがふたつ目の人格」
さらに三つ目の人格、カクタス・ジャックもWWFのマットに解き放たれたが……。

ファンが待ち望んでいたのは、どこまでもハートウォーミングな「本当の自分」ミック・フォーリーだった。ミック・フォーリーはスーパースターとなった。
「すっげえいいやつ」なんだから当然だよね。
プロレスは奇怪にして豊かな人間回復のドラマ。
そう書いて「痛い話」を打ち切りにできたらよかったのだが……。

1998年春。
「このままでは下半身不随になる」
医者に告げられ、ミック・フォーリーは引退を決意する。
マンカインドのデビュー戦がさらけ出したもうひとつの真実。
軽量の対戦相手を抱え上げることすらできなかった。ミック・フォーリーの肉体は限界に来ていた。
しかし、彼には「やり残したこと」があった。
それは「落ちること」と「書くこと」だった。
【連載】魔術とリアルが交錯する「プロレス怪人伝」

著者:中田 潤

フリーライター
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『平凡パンチ』専属ライターを経てフリー。スポーツを中心に『ナンバー』『ブルータス』『週刊現代』『別冊宝島』などで執筆。著書は『新庄のコトバ』『新庄くんはアホじゃない』など多数