【第18回】史上最大のプロレス大会「レッスルマニアIII」に出場したただひとりの日本人|リアルホットスポーツ

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2015年10月7日
【第18回】史上最大のプロレス大会「レッスルマニアIII」に出場したただひとりの日本人

WWF「レッスルマニアIII」。史上最大9万3173人の観客が見つめるリングにリトル・トーキョーら4人の小人レスラーがいた。体重20キロ(公称)のリトル・ビーバーに体重200キロのキングコング・バンディがエルボーを落とす衝撃のシーンが伝えたものは?

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「ぶっ倒れる」「落ちる」「逃走する」リトル・トーキョーの一代の芸

俺たちは、俺たちの動きや、俺たちのプロレスが、俺たちだけにしかできないという誇りでやっているんだヨ。猪木たちにはできないプロレスがネ。
プリティ・アトム(高部雨市『異端の笑国』現代書館より)

リトル・トーキョー。本名、赤羽茂。身長122センチ。体重44キロ。
彼がいつ、米国に渡ったかは定かではない。
赤と黄色の膝当てがついたタイツ、高下駄、紅白のハッピといういでたち。米国で最も成功した東洋人レスラー、グレート東郷の完全コピー、「ミニチュア版」だが、リトル・トーキョーが掻き立てるのは「憎悪」ではなく「笑い」だった。

技を出すシーンはほとんどない。ただひたすらやられまくる。リトル・トーキョーがボコボコにされ、会場は笑いに包まれる。
「あれを見てみろよ!」(実況アナ)
ロープに振られたリトル・トーキョー。振ったカラテ・キッドも走り出す。リング中央で両者の激突……と思わせておいて、キッドはレフェリーの背後に隠れてしまう。
走り、跳ね返り、走り、跳ね返り……を延々と繰り返すリトル・トーキョー。
レフェリーの背後から笑顔で手を振るカラテ・キッド。
「バカだねえ。ウワッハッハ!」(実況アナ)

1994年9月。UWF世界ミゼット選手権試合。最も盛り上がったシーンはリトル・トーキョーの「ひとり芝居」だった。
「ミニチュア版ボボ・ブラジル」のリトル・ココとのからみも絶妙だった。
ココにジャンプしてのヘッドバットをかますトーキョー。
ボボ・ブラジルの必殺技「ココ・バット」からリングネームをいただいているのだから、これだけは絶対にやっちゃいけない技で……ああ……案の定!
体重44キロとは思えない大音量とともにマットにぶっ倒れるトーキョー。
リトル・トーキョーは、ぶっ倒れ、リング下に落ち、全速力で逃げ、マットの下に隠れる。リング下に落ち、反対側から素早く姿を現す、というのも「持ちネタ」のひとつだ。這って逃げるスピードは尋常ではない。

NWA(3度)、WCW(2度)、UWFとベルトを総なめにしたのは、彼が「バンプ(受け身)の天才」だったからだ。侮蔑のまじった目でリングを見る観客を味方につけるすべを知っている。リトル・トーキョーが派手にぶっ倒れると会場が温まる。

9万人の観客を冷たく見返す「小さな日本人」

1987年3月29日。ミシガン州のポンティアック・シルバードームで開催されたWWFレッスルマニアIII。観客9万3173人は、2010年にNBAオールスター戦(10万8713人)に抜かれるまで世界のインドア・スポーツにおける最高観客動員数だった。
史上最大のプロレス大会の第3試合はまさに「猟奇」だった。

リトル・トーキョーのパートナーは、身長196センチ、体重202キロの「闘うヒヨコのお菓子」(古館伊知郎命名)キングコング・バンディ。対戦相手は、身長201センチ、体重150キロの「田舎っぺ大将」ヒルビリー・ジム。巨人2人と小人4人(キングコング・バンディ&リトル・トーキョー&ロード・リトル・ブリックVSヒルビリー・ジム&リトル・ビーバー&ハイチ・キッド)の6人タッグマッチである。
吊りあがった眉の下の細い目。リングに向かうリトル・トーキョーは9万人を冷たい目で見渡した。
史上最大の観客の前で試合をした日本人レスラーは、リトル・トーキョーなのである。
「快挙」と言いたいところだが……。

結論から書けば、リトル・トーキョーは何もすることができなかった。
試合のハイライトは、キングコング・バンディがリトル・ビーバーをボディスラムで叩きつけ、エルボーを落とすシーン。体重20キロ(公称)のビーバーに10倍の200キロが落ちてくる衝撃だった。
間髪入れず、ゴングが鳴らされる。バンディの反則負け。

小人たちが結集し「見世物」は瞬時に「家族の物語」へ

仰向けに倒れ動かないビーバーに、ハイチ・キッドだけではなく、敵役のリトル・トーキョー、ロード・リトル・ブリックも駆け寄って介抱する。
「俺様にドロップキックを放ってきた小人が悪い」「俺様は反則などしていない」とばかりにうすら笑いを浮かべるバンディに、さっきまでパートナーだったリトル・トーキョーが鋭い視線を送り罵声を浴びせる。
伸び放題の髪とヒゲ、裸にオーバーオールのジーンズを履いただけのヒルビリー・ジムが、リトル・ビーバーを抱え上げコーナーへと運ぶ。
まるで祭壇に生贄を捧げるように。

「100%ビジネスの男」ビンス・マクマホンはなぜ、世界最大のプロレス大会に小人レスラー4人を登場させたのだろうか?
レッスルマニアIIIを見直してみて感心した。前座の試合も遺恨、伏線、アングルが張り巡らされている。過去の映像が試合前に流れる。画面はレスラーのインタビューに切り替わり、憎悪の言葉と冷笑が見る者の感情を掻き立てる。

しかし、小人レスラーが登場したこの試合だけ異質なのだ。
「猟奇」「怖いもの見たさ」だけだったリング上は、リトル・ビーバーの「プロレス的死」によって「家族のドラマ」へと豹変した。
実入りの少ない肉体労働を誇りに思い、信仰を糧に愚直に生きてきた田舎者が、ある日突然、息子を失う、というドラマだ。
元アマレス五輪代表のバーン・ガニアが「プロレスはスポーツだ」ということを証明しようとした最後のビッグ・イベント「スーパークラッシュ」。
老舗プロレス団体を叩き潰し、全米制覇を成し遂げたビンス・マクマホンが作った史上最大のプロレス大会「レッスルマニアIII」。
両方の大会に出場したレスラーはリトル・トーキョーだけではなかったが……。
バーン・ガニアに「シュート(真剣勝負)でも強い」ことを認められ、「スーパークラッシュ」でメインを張ったリック・マーテルは、2年半後の「レッスルマニアIII」では、なんと前座の第1試合に登場した。
「スーパークラッシュ」でジャイアント馬場と闘った元NWA王者、ハーリー・レイスは、ビンスにより「ザ・キング」を名乗りバカげた戴冠式をくり返す悪役に仕立て上げられていた。
レイスは「グレコローマンスタイルの華」俵返しでジャンクヤード・ドッグを退けたが、「戴冠式」の寸劇の途中、背後からの椅子攻撃でKOされた。
ビンス・マクマホンは、何度も何度も私に問いかける。
「スポーツってリアルなのか?」
【連載】魔術とリアルが交錯する「プロレス怪人伝」

著者:中田 潤

フリーライター
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『平凡パンチ』専属ライターを経てフリー。スポーツを中心に『ナンバー』『ブルータス』『週刊現代』『別冊宝島』などで執筆。著書は『新庄のコトバ』『新庄くんはアホじゃない』など多数