【第8回】燃える闘魂・アントニオ猪木の「見果てぬ夢」と「借金苦」の物語|リアルホットスポーツ

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2015年8月18日
【第8回】燃える闘魂・アントニオ猪木の「見果てぬ夢」と「借金苦」の物語

2002年3月11日。「世にも奇妙な記者会見」が行われた。壇上にはアントニオ猪木の巨体があったが、主役は格闘技界のスーパースターではなく、彼の前に並べられた数個の鉄の箱だった。

フリーライター
  
pro-wrestling08
※写真はイメージです。

永久発電機「イノキ・ナチュラル・パワー4」って何!?

「本番のときに動かねえんじゃあしょうがねえ」
壇上のアントニオ猪木は「見たまんま」の感想を述べた。
猪木の前には中学生の工作のような鉄の箱が並んでいる。

2002年3月11日。
猪木は突如、格闘技とはまったく無関係の記者会見を行った。
看板には<INP・Ⅳ トルク誘電発電装置>の文字。
INPは「イノキ・ナチュラル・パワー」の略称でこれが4号機なのだという。
「エネルギーの常識にないことが起こりました!」
猪木が装置のスイッチを入れる。
「ものすごいこと」が起きるはずだった。
微弱な電気を装置に送ると、「強力な磁石の働き」により電力は数十倍、数百倍になり、テーブルの上のちっぽけな箱が「永久に発電を続ける」というのである。
「この世界に電気のない暮らしをしている人が20億人もいるんです。私は世界に希望の灯りをともしたい」
この言葉は私も猪木本人から直接聞いたことがある。
スイッチを入れたが……接続された電光掲示板は光らない。機械は悲しげなうなり声を上げただけだった。
猪木が箱を叩く。ビンタで「闘魂注入」しても電球はともらない。
「どうやら、ボルトを一本締め忘れていたようです」
集まったプロレス記者は押し黙ったまま。
小学生でも簡単に作れる「電気が流れる回路」すらない箱を持ってアントニオ猪木は記者を集めたのだった。
私はその場にいなかったことを今も悔やみ続けている。

「この世ではないもうひとつの世界」で永久機関は動いている

アントニオ猪木は「永久機関」の夢を追い求めている。
おそらく、今も。

プロレスファンとしても有名な歌手の大槻ケンヂはこう書いている。
<プロレス情報誌は「恐怖新聞」である。>
<プロレス誌も恐怖新聞も、紙面を飾るのはつねに「この世ではないもう一つの世界」についての情報である>(『ボクはこんなことを考えている』角川文庫)
それは、「霊界」「魔界」「地球空洞説」「神話」「偽の歴史」……「永久機関」を書き忘れていますよ、大槻さん。

この「世紀の記者会見」(ある意味で)は、世間的には「プロレスラーはバカだなあ」ということで片づけられたが……私はまた、次のような記事を発見してしまった。
<逮捕された「磁石詐欺」発明家と片棒担いだアントニオ猪木の関係 アブナイ話に群がるアヤシー人たち>(『フォーカス』2000年12月13日)
……ああ……例の記者会見から1年3カ月も昔の話で……もう……猪木の辞書に「懲りる」という言葉はないの?

写真の中心は、またしても鉄の箱である。腰の高さぐらいの箱を猪木ら3人の男が取り囲んでいる。一様に真剣な表情。
中心に写っている男の名は、高橋靖典(当時60歳)。2000年10月28日、彼は詐欺容疑で逮捕された。
『フォーカス』の記者は、高橋の仲間が主催するセミナーに潜入取材している。講師がぶち上げた「儲け話」とは……。
<この発電機は壁から電気を取って回し始めるのではない。なにもコードがない。ボックスのなかにモーターがある、コンデンサーがある。初動のエネルギーがなくては困るので若干のバッテリーはしまってあるが、あとは回りっ放し。箱の中から無造作に遠慮なしに電気が湧いてくる、大変理屈に合わない発電機だ>
普通、人は、有名人ならなおさら、こんな話を鵜呑みにはしない。
しかし……。

ウガンダのアミン大統領と闘う? おもしれえじゃねえか!

「普通、そう言う話には乗らないですよ。普通は乗らないけど、私は“おもしれえじゃねえか”ってすぐ乗っちゃうほうだから」
初対面のアントニオ猪木はそう言って高笑いをした。
そういう人なのだ(と書くしかない)。

このときは、幻に終わった「猪木対アミン大統領戦」という――ウガンダの独裁者と異種格闘技戦をやる?――「異種すぎる」闘いについて話していた。猪木はまだ参院議員で背後の窓いっぱいに国会議事堂があった。
「確かな話」と「怪しい話」が並んでいると、猪木は「怪しい話」に乗る。「この世」と「あの世」なら、無条件で「あの世」を選ぶ。
そして、猪木は悩む。苦しむ。もがく。

1年間だけ新日本プロレスの社長だった草間政一はこう書いている。
<猪木氏は、「永久電気」「発電機」に多くの私財を投じていた。パチスロやパチンコの収入、CMから得られる収入のほとんどがつぎ込まれ><パチンコのイベントで稼いだ日銭もつぎ込み、それでも足りずに、新日本プロレスのスポンサーからも多額の借金をして急場をしのいでいた。>
<猪木氏は、「新日本のカネをINPに回せ」と、人を通じてしょっちゅう私に言ってきたが、私がガンとして拒絶した>(『A級戦犯―新日本プロレス崩壊の真実』宝島社)

「もし、自分がアントニオ猪木だったらとっくの昔に自殺している」(前田日明談)

借金苦について猪木自身はこう述懐している。
<私は自分らしさを失っていた。金のことしか考えられなくなっていた。考えることは、スポンサーにいい顔して、何とか金をせびろうということ。ある人に会うために丸一日ロビーで待たされたこともある。それでもまた行って、また一日じっと待つのだ。何日も何日も……。>
<本当に心から楽しいということが、私の人生からすっぽりと欠落してしまった。>
<そんな中で毎日“燃える闘魂”としてリングで闘わなければならないのである。
控室で、今日こそいい試合をしてやろう、と気合いを入れて汗をかき、よし、と思ったときに、場内放送が聞こえて来る。
「猪木さん、電話です」
電話を取ると、案の定、手形が落ちていないとか、振り込まれていないという用件だ。せっかくの気合いは一瞬にして萎み、膝の力がガクンと抜けてしまう。落ち込んだ状態で控室に戻り、自分の試合までの時間、じっと座ってあれこれ悩んでいる。周りが何を言っても上の空だ。>(『猪木寛至自伝』新潮社)

猪木の「天敵」だった前田日明が突如、「猪木は偉大だ」と言い出して驚いたこともあった。
「やっぱり猪木さんは偉大ですね。もし、自分がアントニオ猪木の人生を歩んでいたら、とっくに自殺してますよ。ふっと振り返ったら自殺するしかないような断崖絶壁にいて、それでも前を向いて歩いている猪木さんは本当に偉い。尊敬に値する」
猪木を追い込んだ最大の借金苦は自ら設立した会社「アントン・ハイセル」のアグリ・ビジネスであり……これもまた「永久機関の夢」に他ならなかった。
【連載】魔術とリアルが交錯する「プロレス怪人伝」

著者:中田 潤

フリーライター
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『平凡パンチ』専属ライターを経てフリー。スポーツを中心に『ナンバー』『ブルータス』『週刊現代』『別冊宝島』などで執筆。著書は『新庄のコトバ』『新庄くんはアホじゃない』など多数