【第14回】「ゴッドハンド」マス大山と闘った「大悪党」ディック・レインズ|リアルホットスポーツ

  • ウェブライターを大募集!ぜひ応募してください
6,115 views
2015年9月11日
【第14回】「ゴッドハンド」マス大山と闘った「大悪党」ディック・レインズ

グレート東郷の招きでアメリカに渡った大山倍達は、プロレスラー「マス・トーゴー」として270戦し全勝。この伝説は現在、「真っ赤なウソ」とされている。1952年5月3日の1試合をのぞいて……。

フリーライター
  
pro-wrestling14

この話はすべて真実であり、この男は実在する

お母さん方、お子さんを隠してください!
非常事態警報! 街が壊滅する!
ディック・レインズがやって来るぞ!
       プロレスのポスター(1940年代 ニュージーランド)

深い闇に包まれたプロレスラーが二人いた。
「全米32州を11カ月に渡り転戦。通算270試合を全勝した」
「力道山、ルー・テーズも勝てなかった“赤サソリ”タム・ライスを撃破!」
「この話はすべて真実であり、この男は実在する」
ひとりは、漫画『空手バカ一代』に登場する「マス・トーゴー」こと大山倍達である。

1952年。
アメリカに渡った大山倍達は、ロスのオリンピック・オーデトリアムでホイッパー・ペックを「目突き」で、サンダー・ジュリアンを「三角跳び」で連続撃破!
サンフランシスコ。「人間起重機」キッド・モーガン、「死刑執行人」ザ・エクスキュースナーに勝利!
ネバダ州。ディック・リーのドロップキックを「上段十字受け」でブロックした大山は、脳天に蹴りを放ちKO!
再びロサンゼルス。「ブルドック」ダニー・プレッチェスに勝利。グレート東郷、コウ東郷(遠藤幸吉)との「トーゴー・ブラザース」6人タッグ戦では、トミー・ロジャース、アル・アームストロング、ザ・ミステリーマンを3人まとめてKO!
再びサンフランシスコ。大山は力道山から「タム・ライスは空手をバカにしている」と告げられ激怒。「カラテ・デビル」となってタム・ライスに挑み、ライスの猛攻に失神寸前にまで追い込まれるが、一瞬の「三角跳び」で撃破!

漫画『空手バカ一代』前半のクライマックス、血沸き肉躍る「無限血闘編」だが……。
現在、この武勇伝は「真っ赤なウソ」とされている。
それは「大山倍達著」の本を見ただけでも明らかだ。

漫画連載中の1972年に出た『ケンカ空手 世界に勝つ』(スポーツ・ニッポン新聞社出版局)では、タム・ライス戦のみが語られているが、その後の「大山本」にタム・ライスの名前は一切出てこない。

<大山倍達がタム・ライスと戦った事実は絶対にないと断言するのは流智美である。
「私はタム・ライス本人に何度も会っています。私は何度も大山さんとの試合について質問しました。しかし彼は終始、『初めて聞いたよ、そんな話は』『知らない』と言っていました。>(小島一志 塚本佳子『大山倍達正伝』新潮社)

漫画原作者、梶原一騎が「調べればすぐにばれるウソ」を書き、「この話はすべて真実」とする漫画を大山倍達が放っておいた?
「ザ・エクスキュースナー? ダニー・プレッチェス? そんなやつは知らないよ」(大山倍達)
『少年マガジン』を読むのは子どもだけだから?
なんとも呑気な時代である。

大山さんがプロレスの試合をした?誰としたの?

「プロレスラー・大山倍達」伝説にトドメを刺したのは、ともに全米を渡り歩いた遠藤幸吉の次の一言だった。

<遠藤さんはマス大山が向こうで試合をしてるところを目撃しているんですか!?
遠藤 試合なんか誰としたの?>
<遠藤 ホントに大山クンが誰かと試合したっていうことを誰か立証してみてくださいとしか言えない。>(『大山倍達とは何か?』ワニマガジン社)

立証はできない。資料はおろか写真一枚残っていないからだ。
「総裁がプロレスラーを倒した写真を見た」
「8ミリフィルムを見た」
そう主張するのは極真会館の門下生のみ。
「じゃあ、どんなシーンを見たんですか?」と質問を重ねると、
<その写真の詳細を具体的に説明出来た者は誰もいない。>(『大山倍達正伝』)
つまり、全部ウソ?

大山と闘ったレスラー「ディック・リール」は実在したのか?

『大山倍達との日々』(ペップ出版)によれば、梶原一騎の実弟で極真会館の猛者でもあった真樹日佐夫も「大山が闘ったとされるプロレスラーは実在しない」と詰め寄るヤクザに対し「あり得ない話ではない」と応じている。
「実在しない」とされたレスラーの名は、ディック・リール。もうひとりの闇に包まれたレスラーだ。

大山倍達は激怒した。
極真会館に小島一志と編集者を呼び出し、拳を振り上げながらこう言った。
<これは真樹の極真会館に対する嫌がらせだ>
<真樹によって曲げられた真実を正すために何らかの手を打たなければならない>

編集者が呼び出されたのは、真樹日佐夫に対する「反論本」を作るためだ。大山はアルバムや資料を机に並べた。
<ディック・リールは本当にいる。私は実際に戦ってノシたんだから……>
大山はアルバムの写真を指差した。
<これがディック・リールだと思う。>
思う?
<体付きがこんな感じだったから……。多分これだろう>
なんでこんなに自信なさげなの?
小島が写真を調べてみると……案の定!
「ディック・リール」として週刊誌や書籍に掲載された写真に写っていたのは、ルー・ニューマンという似ても似つかない名前のプロレスラーだった。
やっぱり、全部ウソ?

「身長173センチ。体重が80キロしかなかった大山倍達が米国人レスラーを次から次にKOした、なんて話はウソっぱちだ」
大山倍達批判の先鋒はプロレスファンだった。多くの人がプロレス中継に夢中になった黄金時代。「プロレスラーが一番強い」とファンの誰もが信じていたんだから当然だよね。

流智美は膨大な資料を発掘し、「プロレス最強論」を証明しようしたマニアの中のマニアだが……。
<(ディック・リール)の正体は、50年代前半に全米各地でトップを取り、力道山とのコンビで太平洋タッグ王者にもなったデニス・クラリィ(DENNIS CLARY)である。>
<「デニス・クラリィ」を英語で発音すると「デニスク・リーリィ(リが強調される)」すなわち「ディック・リール」とも聞こえる>(『週刊プロレス』1995年3月31日号)

流は「ディック・リールは実在する」と断言している。
<ディック・リールという名前は梶原一騎ではなく大山さん自身の口から何度も出ているわけで、これをフィクションと決め付けるのは強引でしょう。私は、この大山さんの逸話は本当だと思います。>(『大山倍達正伝』)

大山とともに旅をしていた「ビッグネーム」グレート東郷の動きから、さらに信憑性の高い説を提示したのは、もうひとりのマニアの中のマニア、「プロレス考古学者」小泉悦次である。
<ディック・リールときわめて似た名前のディック・レインズ(Dick Rains)というレスラーがいるんです。>

『大山倍達正伝』を読んでいて「エッ!?」と声が出そうになった。
ディック・レインズ!?
格闘技専門店で借りたビデオだったと思う。私はディック・レインズのファイトを見たことがある。名も知らぬレスラーだったが、モノクロフィルムの中の彼のムーブを見て思った。
「なんなんだ!? このすげえ悪役は!?」
【連載】魔術とリアルが交錯する「プロレス怪人伝」

著者:中田 潤

フリーライター
アイコン
『平凡パンチ』専属ライターを経てフリー。スポーツを中心に『ナンバー』『ブルータス』『週刊現代』『別冊宝島』などで執筆。著書は『新庄のコトバ』『新庄くんはアホじゃない』など多数