【第19回】プロレス史100年を最底辺で支えた「サーカスの芸人」たちに最大の称賛を!|リアルホットスポーツ

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2015年10月7日
【第19回】プロレス史100年を最底辺で支えた「サーカスの芸人」たちに最大の称賛を!

WWF「レッスルマニアIII」で自身の100倍の巨人、キングコング・バンディ(体重200キロ)に果敢に挑んだリトル・ビーバー(公称体重20キロ)。このとき、彼はなんと52歳の超ベテランだった。ハンディキャッパーにこそリスペクトを!米国「小さな巨人」伝説。

フリーライター
  
pro-wrestling19

米国「プロレスの殿堂」は毎年、小人レスラーの栄誉を讃えている

キングコング・バンディの巨体の下で動かなくなった小人レスラー。
リトル・ビーバーの経歴を見て驚いた。
1935年生まれ。このときなんと52歳!
リトル・ビーバーことライオネル・ジローが亡くなったのは「レッスルマニアIII」の8年後。1995年。享年60歳。
リトル・ビーバーは2003年に「プロレスの殿堂」に入っている。ミゼット・レスラーとしては、その名もスカイ・ロウ・ロウ(大空低く低く?)に次ぐ2人目。小人レスラーで「殿堂入り」ってこと自体、日本では考えらないことだが……。
同時受賞がニック・ボックウィンクルとハルク・ホーガン!?
「プロレスはスポーツなのか?エンターテインメントなのか?」
AWAで激しく対立したご両人が仲良く並んで表彰された。
米国プロレスの懐はものすごく深い。

PPVの売り上げ12億円がプロレスを変えた?

契約式有料放送(ペイパービューPPV)が本格的に導入されたのが「レッスルマニアIII」だった。PPVにより、プロレスファンはクローズド・サーキット上映の行われる映画館に足を運ぶ必要がなくなった。自宅のソファーでビール片手にプロレスを楽しめる時代が始まった。「レッスルマニアIII」だけでPPVの売り上げは1000万ドル(約12億円)を超えた。
ビンス・マクマホンはプロレス「興行」を捨て「ニューメディア」を活用することで大成功を収めた、というのが定説。

しかし、このときはまだ「プロレスはスポーツ」だったので、州の体育協会はPPVを含め「興行収入」から一定の割合の「上納金」を要求した。
ケチなビンスはその要求を突っぱねた。
「プロレスはスポーツではなく、スポーツ・エンターテインメントなんですよ」
なぜ、ビンス・マクマホンは、史上最大のプロレス大会に小人を招き入れたのか?

プロレスの源流はサーカスだった!?

生真面目な日本のプロレスファンが、否定したいのだが、否定しきれない問いかけがある。
「プロレスの起源はサーカスの見世物なんだろ?」
見世物の名は「カーニバル・レスリング」あるいは「ATショー」。「ATショー(AthleticShow)」を直訳すれば「運動競技者による見世物」である。
プロレス史に詳しい「マニアの中のマニア」流智美の解釈はこうだ。
<19世紀にあった(動物なし)人間だけのサーカス……といっていい。>
<体中に太い針をブスブスと刺したり、首吊りロープを耐えて見せたり、観客から何人も舞台に上げ、力自慢をしてみせたり。前座はもっぱらフリークスによる曲芸であり、残酷ショーだった。>
「フリークスによる残酷ショー」――リトル・ビーバーとキングコング・バンディの闘いはまさにそれだった。
おそらく、小人の試合を組み込むことで、ビンスはプロレスを底辺で支えてきた「ATショー」の芸人たちに賛辞を送ったのである。

「アメリカン・レスリングの父」は元祖「八百長」レスラー?

1880年代。プロレス興行の原型を作ったのは、「アメリカン・レスリングの父」ウィリアム・マルドゥーンだといわれている。彼は自身のサーカスの一座とともに全米を巡業した。
最大の呼び物は地元の力自慢とマルドゥーンの賞金マッチである。しかし……。

<マルドゥーンは、前もって立ち寄り先へ自分の弟子を送り込み、地元住民と戦わせてその町で名をあげさせ、自分が到着したときにはその弟子と対戦して人々の注目を集める、というようなことをしていた。地元住民が、その男がマルドゥーンの弟子であると気づくことも、弟子が親分であるマルドゥーンを倒して自分のクビをあやうくすることも、まず考えられない。>(スコット・M・ビークマン『リングサイド』早川書房)
これが事実ならプロレスの「巡業」が始まったと同時に「八百長」が編み出された、ということになる。
<南北戦争後の二十年間、地方を回るいわゆる“アスレチック・ショー”では、観客を沸かせるために、八百長と弱い相手への手抜きがたしかに行われていた。>
プロレスファンは「プロレスのサーカス起源説」を否定したいけど、史実を示されると否定できなくなるのである。
「小人たちに最大の敬意を!」
それがビンス・マクマホンのメッセージであり、彼の「プロレス観」なのだ。
「“プロレスはスポーツ”などというウソをつくのはもうやめよう」
「プロパガンダ(ウソの宣伝)の百年は終わった」
同時にビンスは問いかける。

「今、目の前で闘っているレスラーと比べて、“スポーツマン”は偉いのか?」
【連載】魔術とリアルが交錯する「プロレス怪人伝」

著者:中田 潤

フリーライター
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『平凡パンチ』専属ライターを経てフリー。スポーツを中心に『ナンバー』『ブルータス』『週刊現代』『別冊宝島』などで執筆。著書は『新庄のコトバ』『新庄くんはアホじゃない』など多数